お花屋さんを守る妖精

花屋さんには、一軒(いっけん)にひとり、かならず
お店を守(まも)る、花の妖精が住んでいる。
そんな話を、あなたは聞いたことがありますか?



その花屋にも妖精が住んでいました。
いつも、きれいにそうじが、してあり
季節(きせつ)の花をあふれんばかりに
かざった、住宅街(じゅうたくがい)の
まんなかにある、ちいさな花屋でした。

花屋を開(ひら)いているのは、少女のころから
花屋を持つのが夢だった、笑顔(えがお)のステキな
げんきな女(ひと)です。
でも自分の花屋に妖精がすんでいるなんてことは
おもってもみないひとでした。

小さな花屋は、いつもこぎれいで
たくさんの花や苗であふれているので
だれかしら、お客さんがおとずれていました。
小さな花屋の妖精はけっこう、この店が
気にいっていて、毎日いろいろな人と
あえるのを、楽しんでいました。


その日の午後(ごご)も店の前に、植(う)えてある
オリーブのはっぱにすわって気持ちよくゆられていました。

すると、自分をじっと、見つめる人間(にんげん)の
気配(けはい)にきがついたのでそちらをながめると
ひとりの、おじいさんが目をまんまるにして
自分をみつめているではありませんか!
妖精はたいして、あわてもせずに
鈴(すず)がころがるような、こえで
おじいさんに、話しかけます。
「オジイサンハ、ワタシガミエルノ?」
「こりゃあ、どうしたやろか?ちいさな人間が
みえるだけで、びっくりしとったが
わしに、はなしかけとる!!!」
「オジイサンハ、トキドキ、ハナヲカイニキテルネ」
さらに妖精が、おじいさんに話しかけるので
もう、おじいさんの目は、まんまるから
点(てん)になってしまいました。
「おまえは、えらい小さいが、だれね?
なんでわしに見えるんじゃ?」
妖精はコロコロとこたえます。
「ワタシハ、ハナノヨウセイ。
サミシイ、ニンゲンニミエルトキモアルノ」
「なんじゃ、わしはさみしくなんか、ないぞ!」
おじいさんは、むきになります。
「おまけに妖精だと?こびとじゃないとね?」
「オジイサン、サミシイノ、ワタシハシッテルノ」
そう・・・このおじいさんは、一人ぐらしで
遠(とお)くに、すんでいる娘(むすめ)の
誕生日や、
結婚記念日(けっこんきねんび)に
この花屋から、お花を、贈(おく)っていたのです。
妖精は、ぜんぶしっていました。おくさんを
三年前に亡(な)くしてから、おじいさんが
さみしいしい思いをしていることも、とおくに
すんでいる、孫(まご)たちに、とてもあいたがって
いることも、おじいさんが話さなくたって
わかっていました。だって妖精ですもの。
「オジイサン、オハナニ、テガミヲ、ツケナイデショウ」
「手紙(てがみ)なんて、書いたことがないけん
なんてかいたらいいか、わからん!」
おじいさんは、妖精にはじめて、あったのに
いつのまにか、すなおに話しをしています。
道をとおる人たちには妖精の姿(すがた)が
みえないので、ちょっとボケたおじいさんが
ブツブツ言っているように、みえるかもしれません。
でも、おじいさんは、かまわず妖精と
話をつづけました。やっぱりおじいさんは
さみしかったのです。二年まえには
仕事(しごと)もやめ、家にはだれもいないので
何もすることが、なかったのです。
庭(にわ)に植(う)えた花のせわをするのが
一番のたのしみで、小さな花屋でも苗(なえ)を
買(か)い、店主(てんしゅ)に花の相談(そうだん)
をして、長い時間(じかん)この小さな花屋で
すごすこともありました。
花は、せわをすれば、ちゃんと花を
咲(さ)かすので、かわいくもあったのです。
「オジイサン、ムスメニ、サミシイ
ッテ、テガミカイタラ?」
「わしは、男だ!さみしいなんて書けんぞ。」
「オトコデモ、オンナデモ、サミシイトキハ
ダレデモ、サミシイノニ、オジイサン、ヘン」
妖精は、コロコロ笑(わら)います。
おじいさんも妖精あいてに、意地をはっている自分
が、おかしく思えてきて、いっしょににクスクス
わらってしまいました。
「オジイサンノ、ワラッタカオ、ワタシスキダワ」
おじいさんはドキッとしました。
おくさんが、いなくなってから、だれかにスキ
だなんていわれたことが、なかったので
まるで、孫(まご)に、いわれたかのように
感激(かんげき)してしまい、自然になみだが
ながれました。じぶんは、なんてガンコ
だったんだろう?孫(まご)にあいたいと
なぜ、娘(むすめ)に、いえなかったんだろう?
「そうやね、むすめに、さみしいと
書いてみろうかね・・・」
「ソウ、ソウ、ニンゲンハ、スナオガ、イチバンネ」
「は、は、は、にんげんくさい妖精やね。」

おじいさんは早速(さっそく)店にはいり
店主(てんしゅ)にむすめの住所(じゅうしょ)を
告(つ)げ、思いをこめた、手紙(てがみ)
といっしょに花をおくったのです。 
「ありがとな!あんたのおかげで、娘(むすめ)
に手紙(てがみ)が、だせたなあ。」
「ドウイタシマシテ」
おじいさんは、オリーブの枝(えだ)で
ゆられている妖精にお礼(れい)を言うと
満足(まんぞく)そうに、かえっていきました。




一週間(いっしゅうかん)ほど、たってまた
おじいさんが、小さな花屋に、たちよりました。
でも、ひとりでは、ありません、小学生らしき
かわいらしい、女の子をふたりつれていました。
おじいさんは、少女たちに、それぞれ
小さな花束(はなたば)をかってあげ
かえりに、オリーブの枝(えだ)の前で
妖精のすがたを、さがしましたが、
みつかりません。
二人の孫(まご)は、おじいさんが、あまりに
きょろきょろしているので、ふしぎに思いました。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「ともだちの、妖精をさがしたけどなあ・・
もう、じいちゃんには、みえんごたあ。」
「えー、おじいちゃん、妖精のおともだちが
いるの?すごーい!わたしたち、あってみたーい!」
「妖精はなあ、さみしい人にしか、みえんらしいけん
おまえたちには、みえんし、もう、じいちゃんにも
みえんみたいやなあ・・・」
「そうなの?じゃあ、おじいちゃんは
ずっと、さみしかったの?」
「そうやねー、いまは、お前たちが、おるけん
さみしくないもんなあ。」
「おじいさんは、孫娘(まごむすめ)の手を
両手(りょうて)に、つないで
たのしそうに、三人でかえっていきました。




おじいさんには、もうみえなかったけれど
妖精は、いつものオリーブの木
ゆられていました。
そして、ぜんぶ知っていました。
「オジイサン、ヨカッタネ。モウズット
ワタシノ、スガタハ、ミエナイワ」
そう、つぶやくと、うれしそうに
ゆられつづけていました。



小さな花屋には、妖精がすんでいます。
しあわせな人には、みえないけれど
さみしい人にはみえる、こころやさしい
妖精です。


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